かの街には、大切なものが欠けていた。
街ができてからただの一度も、“御標”が下りたことがないのだ。
御標とは、神が与えてくれる幸せへの道筋。
それなくして、どうして民が“めでたしめでたし”へと至れるだろう?
それゆえ、かの街の発展はゆがみを孕んだものとなった。
一部のものは、富をかき集めて力を得た。
また一部の者は、兵を背景に力を得た。
べつの一部の者は、法を盾に力を得た。
だが、残りの多くの者は……なんの力も持たなかった。持てなかった。
搾取され、踏みにじられ、偽りの罪を着せられ、ただひたすらに苦しんだ。
それでも、民には希望が残されていた。
――御標が下れば、きっとこの歪みは正されるに違いない。
――御標さえ下りれば、きっと私たちも“めでたしめでたし”に至れるんだ。
そう、そしてついに……その祈りは神に届いた。
かの街に御標が下りる日がやってきたのだ。
嗚呼、嗚呼、哀れなるかな。民はまだ知らないのだ。
かの街にはおぞましき伽藍が潜んでいることを。
待ちに待った最後の希望が、歪められてしまうさだめにあることを――。
全PC共通:かの街には、貴方にとって大切な人物が済んでいる。その人物を訪ねに行くその途上で、貴方はとある声を聞いた。「かの街に、ふさわしき御標を下ろすように」。それはまさしく「神」の声であった。御標のあの人を幸せにできるだろう……?
※「大切な人物」については各PC全員違うものとします。
私が「モノトーンミュージアム」でとにかく好きなのが「御標」の設定です。
御標に従えば幸せになれるし、背けば破滅が待っている。この世界の多くの人は御標に振り回され、悲喜こもごもの物語を紡ぐことになります。
この御標を、自分で書いてみたいと思いませんか? 御標の力で、この世界の住人を幸せにしてあげたいと思いませんか?
今回のセッティングでは、それができます。……というか、御標を書くことを強いられます。
かなり人を選ぶセッティングです。システム経験よりも、「自分で物語を紡ぐ力」が要求されます。ですが、そういうのが好きな方であれば、必ずご満足いただけるものが提供できるかと思います。
ただし1つご忠告。舞台となる「かの街」には伽藍が潜んでいます。伽藍は当然、御標を歪めようとします。あなたの下した御標が、よりひどい状況を引き起こす可能性もあります。そしてもしかしたら……あなた(のPC)にとって大切な人が伽藍である可能性もあるのです!